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Interview

老舗航空機会社開発の固定翼型ドローン、大気観測の“空白地帯”を攻略

#ドローン #兵庫県 #固定翼型ドローン #大気観測 #実証実験
2022.01.20

兵庫県による「ドローン先行的利活用事業 行政分野」実証実験レポート

2020年12月2日、淡路市役所から程近い工場跡地にて取材陣が見守る中、まるで大きな鳥のようなドローンが地表から飛び立ち、そして舞いあがった。宝塚市に本社を置く新明和工業株式会社が独自に開発した、固定翼型のドローンだ。

全国の自治体の中でもドローン利活用促進の実証実験を先進的に行っている兵庫県。
令和元年度から始まった「ドローン先行的利活用事業」では、県内企業を中心として、行政分野のみならず官民連携分野でも利用促進を促すべく、公益性の高い民間事業について実証実験企画の提案公募を行った。
社会実装にこだわる本公募で採択された企画のひとつが、この日実証実験が披露された固定翼型無人航空機“XU-S”(*) を使用した環境観測試験だ。(*Experimental Unmanned / Utility aircraft by ShinMaywa)

無人航空機の開発、測定器搭載および実証試験での運用は新明和工業が担当。測定器の較正・運用は日本気象株式会社が、取得データの解析は神戸大学が担当した。そして兵庫県の産業労働部産業振興局新産業課が、全庁横断のこの取り組みを全面的にサポートした。
産官学が三位一体となって行う充実した座組となった本案件について、実証実験の様子を交えながらレポートする。

航空機開発の老舗企業、自社ドローンの特徴を生かしたビジネスモデルを兵庫県で模索

「飛行機」の似姿ともいえる、長い翼を持つ固定翼型ドローン“XU-S”は、全長2.5m、全幅6.0m、全高0.4m。一見したところ「大きなサイズのドローンだな」と感じる。一方で、重量は13kgと、見た目に反して軽量である。新明和工業は創業100周年を迎えた航空機事業のプロフェッショナル企業。主翼構造の軽量化を始めとした創意工夫は、本業である航空機製造の知見が遺憾なく発揮された成果と言えそうだ。

この固定翼型ドローンの大きな特徴のひとつは、一般的なドローンに比べて長時間の滞空が可能であることだ。2020年夏までの実証実験で、飛行時間は最長4時間を記録していた。また、排気ガスを生じないLipo(リチウムイオンポリマー)電池を動力源としているのも、注目すべき点のひとつだ。

「“XU-S”は2018年から開発を始め、2019年10月に初フライトを果たし、それから半年以上かけて機体の開発を進めてきました。ちょうど機体開発の目処が付き、“長時間滞空”という特徴を活かした実用化の方向性を探っていた時に、兵庫県さんから『ビジネスモデル検証をしてみませんか』と声をかけて頂き、実証実験をさせて頂くことになりました」と、本プロジェクトの責任者である航空機事業部システム課長小松氏は言う。

兵庫県に対して事業提案を担当した宮腰氏は「我々のドローンの特徴を活かした案を兵庫県さんにいくつか提案したところ、今回採択された大気汚染物質の濃度および気温・湿度などの鉛直分布(高度別のデータ)の観測というのが最も適しているのではないかということになり、実施することになりました」と言う。

本実証実験は、オゾン濃度測定器、PM2.5濃度測定器、そして気象センサーを搭載した無人航空機を、時間帯を変えながら地上から上空約500mまで飛行させることとなった。旋回しながらの飛行の為、離陸から着陸まで40分~1時間程度の滞空時間となる。このような条件下での環境観測事業は、本実証試験が国内初とのことだ。


ドローンによる大気観測経験者の日本気象と、神戸大の大気現象シミュレーション研究者が協力

ビジネスモデル検証のパートナーとして新明和工業が白羽の矢を立てたのは、日本気象株式会社だ。天気予報や大気情報をユーザーに発信する事業を行う同社は、2018年に大阪城公園で、ドローンによる気象観測実証実験を行った経験がある。

本事業を担当した神田氏は「新明和工業さんとは、ドローンで何を観測するのが効果的なのか、といった所から議論させて頂きました。弊社にはオゾン濃度測定のノウハウがありましたのでそこを担当しました。また大気のシミュレーション研究を行っている神戸大学の山地先生にお声かけして、大気汚染物質の測定についてご協力頂けることになりました」と、経緯を振り返る。


オゾンやPM2.5という大気汚染物質といわれるものは無から生まれるわけではなく、大気中で化学反応を起こして出来るものだ。ただ、それがどのように出来て、どのように移送されているのか、これまで解析は非常に難しかった。
「大気汚染物質や気温、湿度などの測定は、これまで主に“ゾンデ”と呼ばれる手段で行ってきました。風船にセンサーを付けて飛ばすんです。ただ、飛ばす場所の制約もあり、使い捨てですのでコストもかかります。風が吹けば全く意図しないところに流れていってしまいますし、なかなかうまく測定できないんです。ドローンであれば、測りたい場所に飛ばせる。これがなにより、一番のメリットですね」と神田氏は語る。


シミュレーションの精度を上げるには信用できる観測データが不可欠だが、今回ターゲットとした500m前後の高度の大気観測データが今まではほとんど無かった、と神戸大学大学院海事科学研究科の山地准教授は指摘する。「航空機観測やゾンデ、スカイツリーに設置しているセンサーなど、大気データを測定する方法はいくつかありますが、今回測定したような地表から500mというような範囲という低空域のデータは空白状態。この為、シミュレーション結果が合っているかどうか、実際のデータと比較できなかったんです」。

密なコミュニケーションと試行錯誤で、実装上の問題を解決

今回は、山地准教授が大気シミュレーションを行い「上空の大気は、理論的にこのような変化になっているはず」という仮定をもとに、測定実現のために実装仕様を探っていった。これまで新明和工業の固定翼型ドローンでは上空150mまでの飛行実証を行っていたところ、これを500mまで高度を上げるというチャレンジが求めれた。山地准教授は、「測定に必要な高度については、季節によっても時間帯によっても変わるため一概に言うことはできませんが、今回の実証実験は冬の朝ということでしたので、500mというリクエストになりました。夏だともう少し高い必要があったと思います」と語った。


更に、測定のためには必要なセンサーを適切な場所に設置することが必須となる。「センサーは適切な位置につけないと、測ることができません。例えばプロペラの後ろではオゾンというのは壊れてしまいます。風上に付けてくださいとお願いし、結果的に両翼の下に付けて頂くことになりました。約半年の開発でしたが、開発チームが非常に熱心な方々で、私達も何度も開発現場に足を運び、週に1度は連絡する頻度でディスカッションしてきました」と日本気象の神田氏は語り、実装に際して密なやりとりを行ってきたことを示した。

小松氏は開発チームの責任者として、「今まで機体に付いていなかったもの(センサー)が付くことで、重さも変わりますし、空気抵抗も上がってしまう。またこのドローンは全てバッテリーで動いているため、どのくらいの重さを積んでも大丈夫か詰める必要もありました。しかも今回は旋回上昇していくということで、これまでの150mをただ飛んでいる時よりエネルギーを余計に使います。バッテリー容量も以前より必要になりました」と、クライアントの希望に添う実装のチャレンジについて語ってくれた。


両翼に設置されたセンサーは、片方がオゾン用で、片方がPM2.5用だ。日本気象が初期に用意したセンサーは機体に対して重いということで軽量化をはかったり、また設置にあたっては“ポッド”と呼ぶケースを作り、両翼の重さが同じになるように調整するなど、試行錯誤が重ねられたという。


飛行場所確保に兵庫県新産業課が県内を奔走、舞台は淡路市生穂新島に決定

ドローンの実証実験でまず第一に問題になるのは、飛行場所だ。特に、この固定翼型のドローンの場合は、機体の特性上、真っ直ぐ上がって、真っ直ぐ降りるということが出来ない。飛行機と同じく、ある程度の長さの滑走路や広いエリアを実験場として必要とする。また、周囲に建物があると上空は飛行できないため、できる限り何も無い場所が望ましい。実証実験を開始するには、これらいくつもの条件をクリアする場所を、事業者へ提供することが必要になる。山、海、島といった多様な環境を有する兵庫県が、全庁横断的にこのドローン事業を進めている意味がここにある。


今回の事業では、淡路市生穂新島の約15.6ha(156,000㎡)の土地及び上空が、実証実験の舞台として提供された。実際にドローンを飛行させるには関係各所への説明と許可が必須だが、「ドローンは、どういう飛び方するのか、どの範囲を飛ばすのかで、調整する相手が違うんです。兵庫県さんが居てくださることで関係者が分かりやすくなり、大変有り難かったです。関係各所へご説明に行かなくてはいけない時も、最初のアクセスは兵庫県さんにして頂いたので、とても楽でした」と、小松氏は語ってくれた。


12月1日から始まった淡路市における実証実験は、海辺にもかかわらず穏やかな気候の中、時間帯を変えて複数回、数日にわたって行われた。固定翼型ドローンは、あらかじめ設定した飛行経路を自律飛行する。旋回しながら上空へ舞い上がるドローンの姿は、上昇につれ周囲を飛び回る大きな鳥達の似姿となり、目視では見分けが付かないほどになった。監視チームは一定時間ごとに地点数値を口頭でカウントしながら万が一に備え続ける。上空に到達したドローンは更に旋回しながら下降。最も緊張が走ったのは着陸の瞬間だ。監視者である運用チームは想定される着陸場所へ走り衝撃に備えたが、飛行は事故無く無事終了することができた。



実証実験は無事終了、理想的な測定データを取得できた各社今後の展望とは

山地准教授はシミュレーション結果を裏付けるデータを見て「今回の測定で、約350~500m上空でオゾンが集まっているのがデータから見えました。2日連続で観測できたので、間違いはないと思っています。シミュレーション通り、綺麗にデータが取れたなぁ、というのが正直な感想です。今朝は5時から集まり、7時位にフライトしてもらったり、無理をお願いしましたが、お陰様で綺麗に取れたと思います。今回取ったようなデータは今までほぼありませんでした。貴重なデータだと思います」と率直に語ってくれた。

日本気象の神田氏は、上空900m程度までの“低空”のデータが不足している現状について「実はこのあたりの空域の測定は、一番大事なところなんです。例えば工場から出たものは、だいたいこの空域をうろうろとしているものなんです。データがどんどん増えていけば、シミュレーション精度も上がってきて、大気汚染に対して有効な対策を取ることができるようになっていくと思います。画期的な技術ですね」と期待を込めた。また、「弊社の現在の仕事は天気予報や大気の情報をユーザーに発信することですが、将来的には、良いデータを作るところからやっていきたいと思っています」と展望を語ってくれた。


実証実験を無事終えた新明和工業の小松氏は「今回は実際にお客様のご要望に合わせて『こういったデータを取りたい』『こういう飛ばし方をしたい』というご要望に合わせて、高度や飛行経路を考えたり、機体の準備をするということができましたので、自信になりました」と笑顔を見せた。


「もともと、翼の長さを可変にしたり、特注部品を使わずに市販部品のみの組み合わせで開発するなど、柔軟な変化が可能なように設計してきたところではありましたが、実際に開発実績ができて嬉しく思います。今回の実証実験の結果をもとに、数年以内にはパートナーを見つけ、実用化していきたいと考えています」と、本事業の成果を飛躍させたいという、意志を感じさせるコメントを取材陣に語ってくれた。

(取材・文 かのうよしこ)