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Interview

ドローンによる船舶点検で、船員の安全確保と船主の負担低減を。兵庫発、世界へ向けた事業化を目指す

#NIRO #兵庫県 #神戸大学 #船舶点検
2024.03.29

兵庫県の「ドローン社会実装促進実装事業」は、兵庫県の産業労働部新産業課と(公財)新産業創造研究機構(NIRO)がスタートした、兵庫県全庁横断となる取り組みだ。県内企業を中心とした官民連携でドローンの利用を促すべく、令和元年度から「ドローン先行的利活用事業」として実施してきた。

令和5年度に採択された事業の中から本記事で紹介するのは、昭和41年創業で船用機器・部品の調達及びメンテナンスサービスを提供する船舶業界での老舗企業である國森と、ドローンを用いた点検業務について知見を着実に積み重ねるセブントゥーファイブによる、船舶点検の取り組みだ。

國森 代表取締役社長 石原俊樹様、事業戦略室室長 広中智之様、そしてセブントゥーファイブ ソリューション営業部アシスタントマネージャー柳澤哲也様から、歴史ある港町・神戸ならではのフィールド提供により実現した実証実験の詳細から、船舶点検事業の今後の展望まで、幅広くお話を伺った。

実証実験をする場の確保が、何よりも困難な課題である理由

※今回の実証実験で使用した神戸大学の附属練習船「海神丸」


國森とセブントゥーファイブはこれまでも、ドローンによる船舶点検事業の可能性を探ってきており、2年程は國森のクライアントである船主の好意により、実証実験の場を得ることができてきたという。ただ、民間の船舶は当然ながら、船主のビジネスが最優先。これまで様々な条件をかいくぐりながら実証実験を行ってきたものの、実証フィールドの確保が非常に難しい、という現状があったそうだ。

「國森では、大手船主から一杯船主まで、国内オーナーはもちろん、海外オーナーの船まで幅広く扱っていますが、船舶は基本的にその多くが航行中であり、寄港したときの停泊時間も非常に短いんです。日常の点検業務は航海中に船員が行うことが多く、しっかりと点検を行うのは数年に1度という頻度で、よくあることではありません。この補助事業に応募した当初は我々でフィールドを手配しようと考えていましたが、コロナ禍の影響もあり次々とNGになっていき、実証実験のフィールド候補そのものが無くなっていく状況でした」(石原氏)

この非常に困難な状況で実証実験の場の検討を進められたのは、兵庫県と共に「ドローン先行的利活用事業」を押し進めるNIROの担当者が神戸の大手重工業メーカーで長年船舶を担当していたこともあり、その経歴から得た知見を存分に発揮した成果だ。最終的に、神戸大学海事科学部の深江キャンパスに接岸している多機能練習船「海神丸」を活用し、実証実験を行うことが決定した。

「“海神丸”の存在そのものが、兵庫県でなければ出来ないサポートですよね。日本の船員エリートを輩出する商船大学の流れを汲む神戸大学だからこそ、練習船を持っているわけです。これがないと今回の実証実験は出来なかったかもしれないので、その意義は大きいですね。これまでも神戸大学とのお付き合いはあったのですが、今回のプロジェクトを機に、共同研究契約を締結しました」(石原氏)

水中、船外および船内の高所・暗所・狭所・閉鎖区域。様々な環境下での点検を1日でスピーディに実施。

※「海神丸」にて船底点検の様子


國森とセブントゥーファイブが提案したドローンでの船舶点検の実証実験は、船底、船内、船外という様々な条件下で行う今までにないものだ。水中での船底点検や、船内のタンク点検等、これまでに両者が実証実験を行ってきたドローン点検については運用実績と改善を目的として実施。そして新しい取り組みとして、狭小部・暗所部・閉鎖区域等の点検を実施した。

「船も車の車検と同じように、定期的なメンテナンス検査が義務付けられています。定期検査時は船舶を陸上に揚げて検査できますが、通常航海時はカメラを抱えたダイバーが水中に潜ります。塗装や海洋微生物の付着状況、船底やプロペラに損傷が無いかどうか確認するのですが、年間数件は事故が発生してしまう危険な仕事です。また船内についても閉鎖区域内作業の酸欠や中毒事故は発生しており、かなり危険な状況の中を人が這っていって点検しています。このような危険回避という意味でも、ドローン点検は非常に有効です」(広中氏)

※「海神丸」にて船底点検の様子

ドローン点検業務では経験豊富なセブントゥーファイブだが、屋外、衛星による測位システムが動作しない屋内環境、そして水中と、全く違う条件の点検を同日に実施するというのは、初めての取り組みとなる。船内は主にエンジンルームや床下など、船外空間としてはデッキ周辺を点検し、水中からは船底を点検した。

「一つ一つの点検業務については実施について問題なく実施出来ると考えていましたが、全ての行程を同日に組めるのかどうか、それが本当に実施できるかというのは、天候の影響も含めて、やってみないとわからないところがありました。また水中ドローンについては、これまでも一部の点検ということは経験がありましたが、船舶全周を点検するというのは今回が初めてのことでした」(柳澤氏)

定期的な点検が必要なバラストタンクは、酸欠になりやすく、ドローン点検の実現が世界中の船主が期待するところだという。今回実証実験を行うことになった海神丸にはバラストタンクが備わっていないため、清水タンクをバラストタンクに見立てて実証実験を試行することにした。

「一昨年、國森さんと一緒にカーゴホールド点検を実施しましたが、これは容積の大きなタンクで高さも20m程ありましたが、今回は非常に狭いタンク。直径40cm位のドローンがギリギリ入れる程度で、仕切りも細かく入っている構造体を通過して点検対象を確認していく必要がありました。同じタンク点検でも、難易度の方向性が全く違います」(柳澤氏)

※「海神丸」にて船内点検の様子

人にとって作業困難な危険区域だからこそ、ドローンが“使える”という実感

※「海神丸」にて船外点検の様子


実証実験の実施時期は雪が舞い散る程の寒い季節。上空は風が強い状況が続き、飛行可能になるまで待つ必要があったものの、問題なく点検業務を終えることが出来た。水中に関しては、沼に近いような濁度においての水質検査等の経験があるセブントゥーファイブとしては、非常に見通しの良い水質状況で、対象物の確認もクリアに実施出来たそうだ。今回初挑戦となる狭いタンクの検査については、点検箇所の情報収集のために比較的広角なカメラを積んだ機体で行った。

「今回のタンク内は湿度が非常に高く、電子部品にとっては難しい状況でした。事前に図面をいただくなどして、構造的なことを把握することは出来ていたのですが、タンク内の状況、汚れがどうなっているか、残水がどれくらいなのかというのは、やはり入ってみないとわからないということがありました。今後対策をどうしていくのか、課題が見えてきたというところです」(柳澤氏)

点検者の事故リスクや安全性担保を主な目的として行った実証実験であったが、ドローン点検ならではのメリットとして、ドローンからの映像をリアルタイムで見ながら、細かい指示のもと、より適切な箇所の点検・撮影が出来るという点が挙げられた。

「ドローンの操縦者の隣で一緒にモニターを見ながら、『もうあと50cm奥を見たい』といった細かい指示をさせていただきながら点検を進めましたので、適切な箇所の撮影がしやすい、というのは感じましたね。塗装の状況やサビの状態まで、普段見えないところをしっかり見ることが出来ましたし、写真も人が撮影するのと遜色ないものでした。特に水中ドローンの場合、機体の周辺に水流は発生しますが、人が潜った時と違って気泡が発生せず、映像が非常に鮮明になりますので、かなり使えるなと感じました」(広中氏)

今回の実証実験を行うにあたっては日本海事協会にも声をかけ、検査員の立ち会いがあった。空中ドローンの点検写真に関しては、これまでの取り組みで既に「日本海事協会の検査員による従来の目視検査と遜色なく、代替になり得る」というコメントを貰ってきたそうだ。本実証実験での点検箇所は、人間ではなかなか入れない場所、部分であったこともあり、「ドローンだとこんなに簡単に見られるんだね」「初めて見た、こうなってるんや!」という驚きの声や、「もしかして、ここも見られる?」「あそこも見たい」といったリクエストも多く出る、活気ある現場となった。

兵庫から世界のマーケットを目指し、事業化のための課題を一つずつクリアしていく

船舶の様々な箇所を撮影することが出来た本実証実験では、船舶関係者からの「こんな場所も撮れるんだ」「普段見られないところが、こんなに手軽に見れるのか」という高い評価が得られた。今後、実用化に向けては、船の点検ルールに対して映像をいかにして対応させることが出来るか、という課題が見えてきた。また事業化という面では、マーケットを作り出し、採算ラインにのせるという大きな課題がある。

「今回は、同日に様々な環境下の点検をする必要がありましたが、全て一人の操縦者が担当し実施しました。これからドローンでの点検業務を進めていく中で、少人数で出来るというのは、コストという面から重要な点だと考えています。そこが対応出来たのも、事業化へ向けて良い実証実験結果となったと思います。これらの結果をもって、これからも國森さまと船舶のドローン点検について、活用推進を努めていきたいと思っております」(柳澤氏)

外航船は、様々な国へ長期間に渡って航海へ出るため、いつでも信頼できる業者に点検を頼めるとは限らない。港の状況も千差万別だ。点検の信頼性や品質が問われる中、少ない労力で安全に点検が出来る手法が開発されれば、多くの船舶にとって価値の高いものになりそうだ。

「國森は、船舶に関わる商社としての立ち位置で、日本の海事産業の空洞化を防ぎたい、世界における競争力向上に微力ながらも貢献したいという想いが強くあります。最近の船は7割以上が海外で建造されていて、日本市場は残念ながら右肩下がり。でも、海事産業そのものはワールドワイドなマーケットです。もしドローンによる船舶点検が成功したら、世界中の船舶に採用されるということもあり得ます。ですから、“兵庫県から世界へ”ということを意識して、船主さんの負担を軽く出来るようなサービスを生み出していきたいと考えています」(石原氏)

取材・文=かのうよしこ