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Interview

橋梁下自律飛行による医薬品ドローン配送が切り拓く、河川上の“ドローンハイウェイ”

#NIRO #ドローン #兵庫県 #医薬品搬送 #実証実験 #洲本市
2024.03.27

兵庫県の「ドローン社会実装促進実装事業」は、兵庫県の産業労働部新産業課と(公財)新産業創造研究機構(NIRO)がスタートした、兵庫県全庁横断となる取り組みだ。県内企業を中心とした官民連携でドローンの利用を促すべく、令和元年度から「ドローン先行的利活用事業」として実施してきた。

ドローン事業者 の株式会社プロドローンは、GPS信号が受信できない橋の下も通過できる自律航行可能なドローンを開発し、医薬品メーカーから医療機関まで医薬品を搬送する実証実験を全国で初めて行った。本記事では2024年2月27日、淡路島にて行われたプレス向けのドローンのデモンストレーションについてレポートする。

技術的に困難なドローンの橋梁下飛行で、安全・運用・コストの低減を目指す

ドローンの飛行ルートを河川上とする実証試験は数多く行われているものの、これまでは人や車両が往来する橋の上を通過するというルートを飛行せざるを得なかった。ドローンが飛行の基準としているGPS信号や地磁気センサーが、橋の下を通過することで無効になってしまい、オートパイロットで操縦することが出来ないからだ。ドローン事業者のプロドローンと医薬品卸のメディセオは、これまでも河川上をドローンの飛行ルートとして医薬品を搬送する実証実験を実施してきたが、やはり橋の上を通過することを前提としてきた。

しかし、橋の上を飛行するということは、人や車両等の往来の上空を飛行するということであり、安全性の担保に課題が残る。落下の危険性がある以上、多くの人員を監視や安全性担保のために配置することが法的に求められ、「ドローン物流」を社会実装する上での大きな課題となっている。現実的に川の上をドローンがルートとするには、橋の下を飛ぶしかない。技術的には困難だが、これが実現出来れば都市部を含めた多くの場所で、ドローンの飛行ルートが確保出来るのではないか。

2023年度に兵庫県の「ドローン社会実装促進実装事業」の採択者となった株式会社プロドローンは、GPS信号が受信できない橋梁下飛行の解決策として自律航行可能なドローンを開発し、洲本川に架かる橋梁下を通過する実証実験を行った。更に医薬品卸の株式会社メディセオによる協力の下、適切な管理での医薬品搬送についても実証した。2024年2月27日には、この全国初の取り組みについてプレス向けのデモンストレーションが行われ、多くのメディアが集まった。機体運行を担当するプロドローンの常務取締役 市原和雄氏から、本件の課題と技術的解決策について詳しく解説があった。

「ドローンはGPS信号をキャッチすることで正確な位置を計測し安全飛行することが出来ますが、橋梁下では衛星測位が乱れてしまいます。また橋の素材である鉄骨や送電線などによる磁気異常も発生してしまいます。これらのことから、オートパイロットで橋の下を通るということは、これまでやってはいけないということになっていました。しかし橋の下をくぐることが出来れば、落下分散、落下危険性が無くなるという非常に大きなメリットがあります。技術的な課題は上がりますが、運用コストを下げ、安全性を上げるために、今回は敢えてそこにチャレンジしました」(プロドローン 市原氏)

極めて繊細な管理が必要な「医薬品を配送する」技術検証

本実証実験は正しく医薬品を届けることが出来ることを検証するものであり、ドローン機体提供、運航管理を担うプロドローンの他、医薬品の管理方法規定、淡路支店におけるフライト管理、医薬品運送時の受渡作業をメディセオが行った。また受け取る側としては兵庫県立淡路医療センターが協力し、医療現場としてのニーズ抽出や運用方法アドバイス、運送時の受渡対応、そして最終的なシステム評価等に関わっている。

この実証実験に際しては、運用性と堅牢性を重視し、機動性のある小型ドローンが選定された。現場から「簡単に組み立てられて安全に使える」という運用性が求められていることを考慮した機体であるそうだ。ドローン下部に荷室があり、最大1.5kgまで運ぶことが出来る。また底面にはオレンジ色の浮き輪を抱えており、万が一着水したときの対策が取られている。側面には無線ルーターが付いており、一般的なケータイ電話と同じ電波を利用した飛行が可能となっているため、遠方からでも通信制御することが出来る。

「今回はこのドローンで橋梁下のフライトを実現するために、水面測距と低高度維持機能、また橋梁下における位置誤差のエラーを収束させる仕組みを新たに装備しました。これにより単一の橋であれば30m以上の幅があっても問題なく通過することが出来るようになりました。更に、川面の上を高度を一定に保って飛ぶということは難しいことですが、これも実現出来るように追加で開発しました」(プロドローン 市原氏)

ドローンを使った医薬品輸送については、既に内閣府からガイドラインが発出されているため、ガイドラインに準拠したかたちで医療センターに薬を届ける。万が一ドローンが落下しても持ち主がすぐに分かるように、取得した場合の連絡先を記載した袋に入れたり、医薬品が入った箱には簡単には開けられないように南京錠をかける等、薬品の管理運用についてはメディセオが担う。この日は物流管理部の旭 友也氏より、医薬品輸送管理や、実際に運ぶモノについて詳しく説明があった。

「今回メディセオから県立淡路医療センターに運ぶのは、医薬品に見立てたアンプルで、注射に使われているような、割れやすい素材でつくられています。薬をお届けした時に、割れていたり、漏れているというようなことは、あってはならないことですので、敢えて比較的破損しやすいモノを選んで運び『これを運んでも、割れない』という輸送検証をしたいと考えました。今回は温度ロガーも一緒に輸送することで、輸送中の温度管理をしっかり担保した状態でお渡しすることが出来ます。また震度計も同時に輸送することで、輸送中の医薬品に対して、衝撃が与えられていないかどうかも併せて検証します」(メディセオ 旭氏)

淡路島という地域性による、医薬品ドローン配送に寄せる期待

集まった記者への解説の後は、メディセオ淡路支店の社屋屋上まで外階段を使って上った。この社屋屋上は、近隣の災害時避難場所としてつくられており、外階段を利用してお年寄りも上れるような設計になっているそうだ。メディセオから県立淡路医療センターは3キロ程度離れているに過ぎず、車であれば10分かからない近距離だ。しかし淡路島が地震津波で浸水した場合、物理的に薬が持って行けないということは充分有り得る。そんな時でもドローンがあれば、屋上から機体をとばして病院まで届けることが出来るだろう。

県立淡路医療センター屋上で待機した記者陣は、洲本橋の下方を通過してきたドローンが着陸するのを待ち構えた。この日は風が強く、ドローンは風待ちのため川面の上で待機する時間が長かったが、終始安定したホバリングをみせた。記者陣からは「本当に着陸できるのだろうか」と心配する声もあったが、毎秒10mを超える強風にも関わらず飛行するドローンの姿は全く危なげ無いもので、着陸時にはワッという歓声と拍手が上がった。

着陸した機体にメディセオの旭氏が近づき、荷室から医薬品が入った箱を取り出し、確認。それから県立淡路医療センター薬剤部長の柴田氏へ引き渡すというプロセスを、注意深く確認しながら実施した。実証実験後には囲み取材の時間が持たれ、各メディアの記者から多くの質問が活発に投げかけられ、熱量ある質疑応答があった。県立淡路医療センターとメディセオからは、医薬品という厳格さが求められる輸送物を取り扱うに当たっての厳しさを感じるコメントと共に、今後のドローン配送への期待が語られた。

「医薬品のドローン配送については、現実的には色々な法規制があると思いますので、社会実装するにはそれらをクリアすることが求められるとは思いますが、まずは『輸送出来る』ということが大前提になってくると思います。今回の実証実験で、それが分かったということで、成功だったのではないかと思います。淡路島という場所は、震災や災害が多いところなので、活用できる可能性はあると考えています」(淡路医療センター 柴田氏)

「ドローン物流について、災害時や緊急時に使用することを想定しているのか、と聞かれることがありますが、緊急時に利用するには、普段から使っておく必要があります。日常にこういったユースケースが広がって、万が一の有事の際にも当然使える状況にする。『社会実装』というのは、そういったものだと理解しています」(メディセオ 旭氏)

行政とNIROの“自分事”としてのプロジェクト参与が、調整進行をスムーズに


 兵庫県の産業労働部新産業課と新産業創造研究機構(NIRO)が取り組む、この「ドローン社会実装促進実装事業」において、採択事業者としてどのようなサポートが受けられたのかという質問に対しては、プロドローンとメディセオの両社から、スムーズなプロジェクト実施であったことが語られた。

 「兵庫県には、実証実験の場である洲本市、警察、消防、高校など様々な機関と調整を行っていただき、NIROには実証実験全般のコーディネート、実施までのスケジュール管理や残課題を管理いただきました。他のエリアでは、民間のコンソーシアムが直接、行政などと調整することが多く、調整窓口の多さ等から時間がかかることがありますが、行政の方もミーティングに加わって頂き、“自分事”として現場調整に関わって頂くことで、非常にスムーズに進んだと認識しております」(メディセオ 旭氏)

 「こうした実証実験では、技術的な課題と同じくらい現場の調整が工数として大変で、大きなものとなります。今回はこの部分を担っていただけたので、研究開発に多く時間を割くことができました。実証実験の際にも、現場の立ち入り管理やフライト補助もしていただくなど実業務にも踏み込んで支援いただきました。最終の実証実験はプレス公開という場を作っていただき、プレッシャーではありましたが、広く成果を告知することができました。これまで様々な場所で実証実験を行ってきましたが、研究開発をサポートしていただくという点では、トップクラスのサポートをいただけていると思います」(プロドローン 市原氏)

 これまで兵庫県の実証事業でも結果を重ねてきたプロドローンからは、本実証実験の結果を踏まえ、今後ますます社会実装に向けて進む意欲を感じる熱量あふれるコメントも語られた。

 「いままで橋梁の上空を飛行していたドローンですが、橋梁の下をくぐり、より安全で危険性が少ないフライトを行うことが出来ることが実証出来ました。今回開発した技術は、河川をドローンハイウェイとして利用するためには重要な技術となっていくでしょう。これによって監視委員が少なくなるというのは、運用面でも大きな効果がありました。今後多くの河川流域をドローン飛行ルートの候補対象とすることが出来れば、一層、ドローンの社会実装が進んでいくと考えています」(プロドローン 市原氏)


 取材・文=かのうよしこ