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Interview

漁業組合とタッグを組んだ実地検証でスピード改良を実現、世界初 「水空合体ドローン」で海中撮影

#KDDIスマートドローン #NIRO #兵庫県 #坊勢島 #坊勢漁業 #水空合体ドローン #海中インフラ
2023.04.13

兵庫県の「ドローン社会実装促進実装事業」は、兵庫県の産業労働部新産業課と(公財)新産業創造研究機構(NIRO)がスタートした、兵庫県全庁横断となる取り組みだ。県内企業を中心とした官民連携でドローンの利用を促すべく、令和元年度から「ドローン先行的利活用事業」として実施してきた。

令和4年度は、複数社の応募の中から計8事業が採択されており、そのうちのひとつが本稿で紹介する、KDDIスマートドローン株式会社(以下:KDDIスマートドローン)の「水空合体ドローンによる海底耕耘水底変化の遠隔撮影」事業だ。兵庫県内でも有数の規模となる家島諸島の坊勢島にある坊勢漁業協同組合(以下:坊勢漁協)が実証実験の場を提供し、水空合体ドローンによる遠隔撮影の実証実験を行った。

「ドローンによる海中インフラ点検」社会実装へ向けた実証実験で、漁業従事者の“声”を開発に生かす

本事業に応募、採択されたKDDIスマートドローンの松木様と土居本様に、応募のきっかけから実証実験における取り組み内容について、幅広くお話を伺った。

──KDDIスマートドローンと兵庫県は、ドローン社会実装における実証実験を何度もご一緒しています

松木:KDDIは2016年にドローンの事業化に向けた取り組みを開始しています。兵庫県はドローン社会実装における取組が盛んなことで有名でしたので、2020年から継続的に連携しており、県内での実証実験等も実施してきました。

2022年4月にはKDDIスマートドローン株式会社を設立し、弊社では海中インフラ点検を目的とした「水空合体ドローン」の開発を進めています。これは、水面離発着ができる空中のドローンと、水に潜り撮影する水中ドローンを組み合わせたものです。

海は、少しの失敗が命取りになってしまう危険な場所ですし、潮の流れや風の影響等、様々な自然からの影響が考えられます。やはり実際の海で使えないと、ドローンの利活用は広がらないと考え、社会実装に向けた実証実験場所を求めていました。

そこで事前に、県内でのドローンの活用現場を兵庫県に相談したところ、漁業での活用を提案されました。更に、坊勢漁協様が、新技術に対して前向きに取り組んでおられるということをお伺いして、ご紹介頂くことになりました。

──海中撮影を行う場所については、漁業従事者の皆様からの声を参考に決めたと伺いました。

松木:まず我々からの提案としては、漁業従事者の方々は定置網、養殖場の様子が見たいのではないかと想定していました。これらの監視の為には毎回船を出して、ダイバーの方を雇って水中の状況を見てもらう必要があります。非常に大変な思いをされているわけですが、ドローンの利活用が出来るようになれば、監視が簡単にできるようになります。

これに加え、坊勢漁協様からリクエストを頂いたのが、「海底耕耘後の、海底の変化の様子を見たい」ということでした。兵庫県では、近年、貧栄養化が進行する瀬戸内海の栄養塩濃度や生物の生息環境を改善し、豊かな海を再生するため、耕耘桁をロ-プに結んで船で引っ張り、海底を耕し、魚が育つのに必要な栄養源を海底から掘り起こす「海底耕耘」という作業を行っています。これまで何千回も実施されて来た作業ですが、実施後に海底を見たことはなかったそうで「もし撮影が出来るのであれば、是非やって欲しい」ということで、実施させて頂くことになりました。

下見から実証実験まで、この1年間で延べ1週間以上現地に滞在し、坊勢漁協様をはじめ漁業従事者の皆様の声を直接聞いてきました。鯖やボラの養殖や定置網漁に従事している方、海底耕耘の際に実際に作業されている方に、現場に立ち会って頂くことが出来たので、どの場所をどういう風に見たいという、具体的で細かいニーズまでご意見を頂き、反映するようにしていました。漁業従事者の皆様から率直なご意見をいただくことは、なかなかできないことですから、ご協力頂いた皆様には大変感謝しております。

実際に撮影した結果を見て頂いた後に「これで漁業が変わるかもしれないね」というコメントを頂いたりして、柔軟で未来志向の漁業組合だと感じました。

──坊勢島での実証実験に対応する為、ハード面で新たな検討、追加開発等はありましたか。

土居本:従来は近海での実証実験を行っており、陸も近く、海も浅く、潮の流れもあまりありませんでした。飛行条件としては、陸地から約3キロの沖合に飛んでいって着水し、約1時間、海中を点検・監視し戻ってくるという想定でした。海の条件としては、海流が毎秒1m、波の高さも1mまで耐えられることを目指してきました。ところが今回は、海底まで30m近くあり、潮の流れも1m以上あるという状況で、我々にとっては初めての、かなり過酷なチャレンジとなりました。

ドローンの飛行管理についても、位置を把握しコントロールするという基本的なことが最大の難所となりました。空中ドローンは波や潮の流れで、水中ドローンも水中で海流に流されてしまいます。そこで今回、まず空中ドローン側に水中モーターを付け、水上移動が出来るようにしました。更に水面で位置情報により、海面で流されず自律的に留まれるようになりました。これは大きな成果の一つだと思っています。

また今回の実証実験は、遠隔でのドローン運航を前提としています。空中ドローンの着水後にドローン周囲に船が近づいてきたり、突然潮目が変わり流されてしまって、ブイにぶつかってしまったりする場合を考慮して、対象物を避ける為に360度カメラを搭載しました。遠隔で周囲を監視しながら点検作業ができるような機能も追加しました。

更に、今回のフィールドは30mという海の深さでしたが、現行の水中ドローンは20mまでしか潜れませんでした。そこで、50mまで潜れるようにする為、ケーブルを細くし、小型化した巻き取り装置を搭載するなど、大きな変更を加えました。

──海底耕耘、定置網、養殖場、それぞれの撮影結果について教えてください。

松木:海底耕耘では、耕耘桁という2メートルくらいの幅の鉄製の桁で海底を掘り起こしますが、2度の撮影実証を行い、最終的に桁全体でまんべんなく海底が掘り起こされていることがしっかりと確認出来ました。坊勢漁協様からは「想像通り、きちっと削れていて安心しました」「今まで数千回やってきた作業だが、初めて確認できた」というお言葉を頂きました。

定置網については、海面から確認出来ない深さに網があるため、毎日船を出して部分的に引き上げ、魚が入っているか確認しているそうです。網の様子を遠隔で確認出来るようになれば、船を出すという手間やコストの軽減になります。撮影映像を見た漁師の方からは、「魚がかかっているタイミングを捉えて引き上げることが出来るのは、漁獲量という点でもいいね」とコメントを頂きました。

養殖場では、魚介類の残渣が養殖網の底に長期間沈むと、他の魚の生育に支障が出てしまう為、定期的な回収作業をしているそうです。ところが適切な回収タイミングを計るのは非常に難しく、ダイバーが潜水し状況を見るしか方法が無いような状況でした。今回、坊勢漁協様にもリアルタイムで映像を見て頂いたところ、すぐに「これは、すぐに回収しないと!」と判断されていましたね。「これが見たかったんだよ!」というコメントも頂きました。

──「海」という環境だからこそ大変だったと感じられたこと、工夫されたこと、今後の展望について教えてください。

土居本:船の上ですと、現場で起こっていることの情報共有が非常に難しく、皆様からご指摘を頂いて、都度改善を試みました。松木のインカムが船のスピーカーから直接出るように坊勢漁協様にご用意頂くことができて、松木の依頼や指示がすぐに船全体に伝わるように出来たということがありました。

最終的には我々KDDIスマートドローンの連絡網に、坊勢漁協様やアテンドしてくださる兵庫県、NIROにも入って頂き、常時我々の動きを把握して頂くことになりました。状況によって適宜フォローを頂きながら実験を進めることが出来、大変有り難く思っております。

また、海の環境はその場で変わっていくため、我々では判断が付かない事も多くありました。例えば、海面に出したドローンを回収するタイミングなど、海のプロフェッショナルである坊勢漁協様の方々に、随時状況をご判断頂くことで助けて頂きました。今後、「海」という現場にドローンが出て行くことは多くなると思いますが、海での安全運行計画をつくっていく際の知見としても、とてもプラスになった実証実験となったと感じています。

日本一の漁船数を誇る坊勢漁業協同組合が全面協力することで、リアリティのある“活用”実証実験に

本実証実験の取り組みは、「海」というフィールドを知り尽くしている坊勢漁業協同組合の協力無くしては到底為し得ないものだったと、関係者の誰もが口を揃えて語っている。そこで、坊勢漁業協同組合 代表理事組合長の竹中太作氏に登場頂き、本実証実験における協力内容や、漁業事業者としてドローン社会実装に対して視えた課題、展望までお話を伺った。

──坊勢漁業協同組合は、これまでも先進技術の実証実験に積極的に協力されておられます。

竹中:坊勢島の漁業組合は400人以上の組合員がおりまして、平均年齢は54歳位となっており、水産業、漁業関係としては、若い方の組合だと思います。これだけの人数になると、これまでのやり方を変えたくないという組合員もおられますし、一方でどんどん新しい事に取り組んでいきたい、という組合員もおられます。坊勢漁協としては、兵庫県などから実証実験のご依頼があれば全力で協力しており、兵庫県とは、令和二年度の実証実験から協力させて頂いています。

飛行タイプのドローンに関しては、密漁などを防ぐ為の漁場監視用に漁業組合で導入していて、職員に免許を取って貰って実際に運用しています。でも今回のドローンについては、お話を伺うと我々の想像とは全く異なり、技術はどんどん進んでいっているんだ、という印象を受けました。


──「水空合体ドローン」を見て、海底耕耘作業後の撮影を要望されたと伺いました。

竹中:海底耕耘の作業後の海底の様子がどうなっているのかは、前から漁業従事者としては気になっていたことでした。海底耕耘や定置網の中の魚、養殖網の魚、そういった「動かないモノ」を撮影するのが、今の水中ドローンには向いているのではないかと思いました。

定置網や養殖場の撮影についても、もっと網が複雑になっているところや魚が入っているところも見てみたいのですが、動いているモノと並行して水中ドローンを動かすといったことについては、まだ難しいのではないかと感じました。


──水中ドローンの撮影映像を見て、どう思われましたか。また、ドローン活用について期待するところを教えてください。

竹中:想像以上に、綺麗に映っていました。もっと暗くて何が映っているか分からないのかなと思っていました。漁業従事者でも、これまでこのような映像は見たことがありませんでした。これまでは実際に潜水して見ているダイバーの話を聞いて、「きっとこういう風になっているのだろう」と想像して仕事していました。聞いていた話が本当に想像通りになっていることが確認出来た、という感じですね。

養殖場オーナーは網の中が常に気になるので、もしドローンで毎日見られるなら、毎日見たいと思います。網の汚れもありますが、網の外の魚が中の魚を食べようとしてつっついたりすると、網が破れてしまったりするので、それが確認出来たら良いですね。最終的には、ドローンが定置網なり養殖の中の状態を自動で監視しに行って戻ってきてくれて、家に居ながらその映像を見られるようになったらいいなと思います。海底耕耘に関しても、掘り起こした後にホコリが舞っている状態なのですが、それがいつ落ち着くのか見るのに活用したいなと思いました。

まだ、今の状態のドローンでは、実際に漁業の仕事で活用する、現場の漁業従事者が活用するという段階までは来ていないと思います。ただ、今回の実証実験を機会に更に改良が進み、漁業従事者でも簡単に活用することができ、漁業現場の安心・安全、効率性が確保され、日本の漁業がさらに発展することを期待します。

取材・文=かのうよしこ