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Interview

ドローン活用でインフラ施設点検の“見えない”を減らしたい。水管橋崩落事故を契機に

#NIRO #X線撮影 #ドローン #兵庫県 #水管橋点検 #点検サービス #空撮 #赤外線撮影
2022.11.21

兵庫県の「ドローン先行的利活用事業」は、兵庫県の産業労働部産業振興局新産業課と新産業創造研究機構(NIRO)がスタートした、兵庫県全庁横断となる取り組みだ。県内企業を中心とした官民連携でドローンの利用を促すべく、令和元年度から実証実験企画を行ってきた。

令和3年度の行政分野では、兵庫県企業庁水道課が「水管橋点検のドローン利活用」に関する公募を出し、これまで目視が難しかった箇所の点検を行うことを第一目的に、効率的な点検手法についての提案・実証を求めた。

 複数社の応募があった中から、ドローンを用いた点検サービスの実績があるエア・ウォーター株式会社及びセブントゥーファイブ株式会社の提案が採択され、加古川及び猪名川に架かる水管橋にて、可視光、赤外線、X線での点検撮影の実証実験を行った。

本事業における課題や展望について、水道課主査 辻本裕二氏と職員 服部高之氏に、また本事業に応募した経緯やドローン機体の開発経緯について、セブントゥーファイブ株式会社の代表取締役 石井克幸氏に、詳しく話を伺った。

「今まで見えていなかったところを点検したい」

 兵庫県企業庁水道課が管轄する水管橋は100橋程あり、5年に1度義務付けられている定期点検は専門業者に委託し実施している。水管橋は、単独橋と、道路橋などの他の施設の一部に添加する添架橋に大別され、管路の大きさや延長により様々な構造形式がある。

 調査員はこれを目視できる範囲で点検し、何らかの損傷があった場合は「要観察」「すぐに直すべき」などの評価を行い、劣化部分を撮影、コメントを付記して報告書を取りまとめる。一方で「異常無し」と判断された場合には、水管橋の全景を撮影して、その旨の記録を残す。

「今の水管橋点検基準では、『手で触れる距離からの近接目視点検』を推奨されているものの、あくまで“推奨”に留まっています。水管橋は、道路橋で使用する橋梁点検車が使用できないため、近接目視が現実的に難しい場所も多い。併設するガスや電気などの別管轄下の施設と重なって物理的に見えない場合や、1ヶ月以上かけて足場を組まなければ点検出来ない場合など、理由は様々です。ただ、詳細な確認ができていない、見えないところは見ていない、という状況には違いありません」(辻本氏)

 水道課が状況を重く見るには、理由がある。2021年10月、和歌山市で水管橋の一部が崩落し、紀ノ川以北の6万世帯、13万人以上に対して水の供給が1週間にわたりストップした事例だ。この事故により全国で水管橋の安全確認などの対応を迫られた。 「今回の公募では、まず、今まで見えていなかったところをドローンで点検したい、というのが第一の要望でした。歩廊部から橋の上部を見ることは出来ませんし、また足元より下方にある橋脚部分などを目視するのは大変危険です。きっちり見ようと思えば足場を組んでということになるので、お金も手間も、期間も膨大にかかってしまう。この課題をドローンで解決したいと考えました。また、赤外線やAIなど新しい技術を導入することで、これまで目視により専門技術者が診断していた部分についても、新たな診断結果が得られるようになればいいな、と思っていました」(辻本氏)

可視光での空撮に加え、赤外線、X線撮影にも挑戦

 セブントゥーファイブ株式会社は、ドローンを始め、顔認証、AIでの画像解析など、先端技術を活用しながら様々な社会的な課題に対して取り組むベンチャー企業だ。既にドローンを活用した点検業務実績があり、周辺に通行者がいる場でのビル外壁や、GPSでの位置情報取得が不可能である大規模プラントなどでの知見を持っている。一方で、インフラ分野に関してはこれまで参入出来ていなかった。

「インフラ点検は今後とても課題になってくると思いますし、当社としても興味はありました。ただやはり、インフラを管理しているのは行政ですから、自治体側に『ドローンを使いたい』という方がいないと実現は難しい。兵庫県が、他の自治体に比べてドローンの利活用に関する取り組みに力を入れているということは、ドローンの展示会出展を見て知っていました。令和3年度の公募内容をチェックしたところインフラ点検の利活用案があるのを見て、是非参画したいと思い応募しました」(石井氏)

 今回、実証実験の対象地として選ばれたのは、加東市を流れる加古川に架かる水管橋「加古川横断共同橋」と、川西市を流れる猪名川に架かる「猪名川導水管橋」の2箇所だ。そのうち「加古川横断共同橋」は、上下水道だけでなくガス管も通る大きな水管橋で、橋長は約236mとなっている。目視による詳細な点検をするには、1ヶ月以上かけて足場を組む必要があり、点検が難しい橋でもある。一方で、周辺環境としては、近隣はインフラ関連施設が建つのみで、人通りも少なく、また整備された歩廊もある。

「ドローン飛行にとっては、危険度が少ない場所を実証実験の場にしていただきましたので、可視光のカメラ撮影は弊社の経験値から、問題なく実施できると考えて応募させていただきました。実験的な取り組みとして、赤外線、X線による撮影、またこれら水管橋撮影データを利用した、劣化部分の画像診断も提案させていただきました」(石井氏)

 可視光カメラと赤外線カメラは搭載できるドローンが既に市販されている。一方、X線カメラの搭載ドローンは市販されていないので、独自開発する必要があった。セブントゥーファイブの親会社であるエア・ウォーター株式会社ではX線を扱っており、この取り組みのために2社協力して実装を進めた。

水道課の積極的な協力が、実証実験を未来に繋げる

セブントゥーファイブは、水管橋点検におけるニーズについて水道課にヒアリングの機会を持つなどしてプロジェクトを進めていった。ドローン飛行の事前準備として、対象地関係者への周知、連絡が必須である。「加古川横断共同橋」は、兵庫県企業庁、加東土木事務所、大阪ガスが共同で管理する橋であり、この調整は水道課が担った。

また、撮影データからAIで劣化解析を行うため、水道課で保有していた前回定期点検時の報告書画像、合計1,000枚ほどをセブントゥーファイブに提供し、劣化箇所の学習データとして利用できるようにするなど、まさに官民一体となってプロジェクトに取り組んだ。

様々なリスクヘッジを考えた上で今回選択したドローンは、直径約50cmの機体だ。設備とは一定の距離を保つことになるが、安定感のある飛行ができる。

「我々が点検業務を行う時に最も重視していることは、“設備を傷付けない”ということです。『ドローンはもう安全技術が確立している』と思われる方も多いのですが、まだまだ不十分だと思っています。最悪のケースですと、例えばドローンが落下したところに水管橋があって、設備に傷をつけてしまう。そういったリスクを全部加味した上で、ドローンの機体を選び、撮影手法を考えなければいけません」(石井氏)

 可視光線カメラではズーム撮影を実施し、ズーム機能の無い赤外線カメラでは等倍撮影を行なった。X線撮影は、試行錯誤の結果、水管橋側に手動で設置したシンチレータ(X線に反応する蛍光体)に対して、ドローンに搭載したX線源からX線を照射して行うことになった。X線源は質量が重いため、ドローンの機体を大きなものに変更して対応した。

「見えない」を「見える」に変える、ドローン活用に手応え

令和3年の秋から現地調査やテスト飛行を開始し、実証実験“本番”は令和4年2月に可視光、赤外線、X線での撮影を実施した。長さ約236mの橋を端から端まで詳細な撮影をするため、可視光での撮影だけでも約4〜5時間という時間がかかったという。

「目視点検の場合ですと、水管橋の上を歩きながら、渡りながら撮影するということになります。ところが今回の水管橋の場合、水道管の上には大阪ガスさんのガス管があって、物理的に上から撮影することができない状態になっています。それが今回、ドローンを使って斜め上の方向からは見ることができました。可視光線カメラでも外観は細かい点も見ることができましたので、実施して良かったなと思っています」(服部氏)

ドローンに上向きのカメラを付け水管橋の下から撮影し、次に下向きのカメラを付けて上から撮影し、更に左右からと、様々な角度から撮影をした。今回は水管橋の状態が良かった為、傷や大きな問題は見つからなかった。汚れやさびがあるところについては、集中的に撮影したという。

「今回使ったドローンの大きさでは支承の部分に近づくことができなかったのですが、事前調査の段階で『ここは入れる』『ここは入れません』ということをもう少し突き詰めておけば、というところが反省点になりました。そこを精査していくことで、現在実施している目視点検と合わせて、小型ドローンなどの利用も視野に入ってくるのではないかと感じました」(服部氏)

「今まで見えなかったところが見えるようになった、という意味では、かなり有意義な点検になると感じました。ただ、例えば、水管橋と橋脚のつなぎ目、支承の部分など、もう少し中まで詳しく見たかったですね」(辻本氏)

 赤外線やX線での撮影については、実施し撮像することは実証できた。しかし水管橋との距離が想定よりも遠く、判定や診断に用いるには映像の鮮明さが足りないという結果になったそうだ。

「採択審査時、審査員の方々から『X線や赤外線の撮影で何か見られるようになったら面白いね』という意見が多かったので、今回のデータでしっかり診断できなかったのは残念だなと感じています。一方で、今後AIでの解析技術の向上であったり、重量のあるカメラを安全に搭載できるドローンができていけば、撮影できるものも変わってくると感じました。ドローンの飛行や撮影技術に加え、判定、判別技術も含めて、進化を期待していきたいところです」(辻本氏)

将来の設備維持管理に、ドローン導入検討は不可欠

近い未来、技術者の削減や高齢化によって設備維持管理についての不安があるということは、どの自治体にとっても共通の課題だ。今回の実証実験では、そのような課題に対してドローンが有効な手段であるということが確認できた。

「今はまだ、目視できないところが『見えなかった』という報告で済んでいます。しかし今後、詳細な点検が義務化されれば、ドローン利用での点検が拡大していく可能性は充分あると考えています。その時に、専門コンサルタントとドローンが融合したような形で点検が出来るようになっていることが理想ですね」(辻本氏)

「足場を組んでの点検には作業員の危険性が付き物ですが、ドローンを使うことで事故の抑止になります。次回、5年後の定期点検の際には、延長が長いものや、何か起こった時に断水の恐れが大きいものを選んで、ドローンで点検できたら良いなと思います」(服部氏)

 セブントゥーファイブの石井氏からは、自治体担当者からの「やりたい」という気持ち、「今後こうしてきたい」という強い意思があったことが、プロジェクトの取り組みやすさに繋がっていた、と笑顔で語ってくれた。

「水道課さんにも一緒に現場に来て頂き、ドローンを飛ばしている横で『ここが見たい』『ここはこんな風に見えるんだ』とコメントいただいたり、水管橋点検をずっとやっておられる業者さんの悩みなどを、水道課さんを通して通して聞くことができました。このようなお声を頂けたことが、すごくありがたかったですね。今回の実証実験で得た知見やニーズを、今後のサービス開発に生かしていきたいと思います」(石井氏)。

これから盛んになるであろう、行政とドローン事業者のコラボレーションを促進する、契機のひとつとなる実証実験であったとも言えそうだ。

取材・文 かのうよしこ