次世代のドローン社会実装を見据えた、リスクマネジメントと開発スペックへの提言~第1回ドローンサミット 基調講演レポート~
2022年9月1日(木)・2日(金)の二日間に渡り、神戸国際展示場2号館(神戸ポートアイランド)にて「第1回ドローンサミット」が開催された。国内のドローン事業者や国内で行われている各種実証実験等の取組を全国的に発信し、これまでより一層、ドローンの社会実装を加速させたいとの思いに、国内のドローン事業者や関連事業者が全国から集結。1日目約5,800人、2日目約7,100人の合計12,900人の来場者を迎え、活況を呈した。本稿では、9月1日に開幕した「第1回ドローンサミット」のシンポジウムの基調講演について紹介する。
ドローン利活用時代の航空安全確保、リスクマネジメント~鈴木真二氏 基調講演~
基調講演の一人目として、東京大学未来ビジョン研究センター特任教授で東京大学名誉教授の鈴木 真二氏が登壇した。鈴木氏は航空宇宙工学の第一人者であり、航空イノベーション総括寄付講座代表、一般社団法人日本航空宇宙学会会長、スカイフロティア社会連携講座代表などを歴任。現在も一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)理事長、一般社団法人航空イノベーション推進協議会代表理事などを務め、ドローンの社会実装のため第一線で働きかけを行い続けている人物だ。
JUIDAは無人航空機操縦技能証明証などの民間資格交付を行っていることで親しまれている団体であり、一般的には操縦者育成、ドローンスクール関連の印象が強いかもしれない。積極的な利用促進における活動の一方で、ドローンの不正利用や悪用、落下事故などへの懸念から、JUIDAは国の動きに先んじてドローン飛行における安全ガイドラインを策定してきた実績がある。
「今年12月から有人地帯における補助者なし目視外飛行“レベル4”の解禁もあり、これまで以上にドローンの活用は期待されているところです。一方で、この空飛ぶ機械が落下したらどうなるのか、また悪用されたらどうなるのかという懸念があることも確かです。実際に世界では様々な事故例、不正利用があるのも事実。このような中、いかに安全に、安心してドローンが使えるような制度設計をしていくべきか、今各国が取り組んでいるところです」(鈴木氏)
国内外における重要人物への襲撃やテロに対する懸念があることを紹介。また、空港周辺でのドローン飛行による影響が広がっているという。2018年には英ガトウィック空港にてドローン目撃により36時間の滑走路閉鎖、2019年には関空の滑走路付近をドローンが飛行し、計46便が欠航や目的地、遅延などの影響を受けた。ドローンサミット会場の所在地は“神戸ポートアイランド”であり、神戸空港、関西国際空港、伊丹空港という3つの空港と至近距離にある。来場者にとって身近な、切実さを具体的に感じられる事例紹介であった。
「『安全』とは何かというと、リスクをゼロにすることではなく『許容できないリスクが存在しない』ということです。事件事故がどのくらいの頻度で起きるか、また起きた場合にどのくらいの被害をもたらすのかを分類します。インパクトが非常に大きい場合は『使ってはいけない』ということになりますが、中程度の場合はリスク軽減することで利用できるようになったり、飛行するには申請し認証を受ければ使えるとしたりします」(鈴木氏)
鈴木氏は「福島ロボットテストフィールド(RTF)」の所長でもあり、ここで発表しているプラント点検、警備、イベント開催時の空撮など個別のシチュエーションに合わせた安全運用のためのガイドライン、機体性能評価手順、教育カリキュラムなどの紹介があった。RTFは経産省が実施する「ドローンサービス品質標準に関するJIS開発」受託などを通して、標準規格活動に積極的に取り組んでいる。国際標準規格への目配りもされている国内ガイドラインの参照は、既存事業者、新規参入事業者問わず今後の事業に役立つに違いない。 2022より始まった機体登録制度や、2023年開始の操縦ライセンスの国家資格制度も合わせ、今後ますます「ドローンの安全飛行」に関する注目は高まっていく。航空業界の過去の事例を遡りながら、「ドローンをどう活用するか」を促進することと同時に「どうリスク回避するか」についてフォーカスした、ドローン利活用の“今後”にフォーカスした講演内容であった。
世界のドローン調査から考える、日本のドローン開発の現状と未来~野波健造氏 基調講演~
続いて登壇したのは、日本ドローンコンソーシアム(JDC)会長、一般財団法人 先端ロボティクス財団 理事長で、千葉大学名誉教授の野波健蔵氏だ。制御工学の第一人者である野波氏は、1990年代から無人ヘリの自律制御に取り組んできた。2001年にはヒロボー社と研究室が一丸となり、日本初の10kg無人ヘリ機体のオートパイロット飛行を実現。近年は50km以上の長距離物流を実現すべく立ち上げたカイトプレーンによる東京湾縦断プロジェクトが話題だ。
「まず大事なことは、“いいドローンをちゃんとつくる”ということ。これが原点だと、私は思っております」という言葉から講演はスタート。「世界と日本のドローン産業動向」と題した本講演では、世界のドローンメーカーについて調査してきた5年間の成果が共有された。500社以上のドローンメーカー調査を経た後、詳細を調査する対象を選別。5社以上のドローンメーカーがある42カ国のうち、軍事用ドローンは含まないという条件に合致する事業者に絞り、284社に対してWeb調査を実施し機体性能などを精査した。
世界のメーカー数上位をみていくと、1位はアメリカで156社、2位は中国で51社、3位はインドで37社となっている。インドは近年、ドローン分野の優遇政策を実施、また2022年2月には完成品ドローンの輸入を禁止するなど活発な動きがあり注目されている国の一つだ。日本は27社で5位になり、イギリスやイスラエルと並ぶ結果となっているとのこと。 次に、機体についてのタイプ別の割合だ。日本では「ドローン」というと回転翼のイメージがあり、実際にプロダクト数として回転翼が9割を占める。しかし世界でのシェアは回転翼と固定翼はほぼ半々となっているそうだ。また動力源は電動が7割、エンジンが約2割、その他ハイブリッド型やソーラー発電などが挙げられた。この割合は国内外で大きな差は無いようだ。
続いて、詳細を調査した284社の機体について、最高速度、飛行時間、最大ペイロードの3つの機能を比較し、上位10位の機体について具体的な紹介があった。最高速度の第1位は「COMCOPTER S-100」(オーストリア)で240km/h、飛行時間の第1位は「FLEXROTOR」(アメリカ)の33時間、最大ペイロードの第1位は「BLACK SWAN」(ブルガリア)で350kgであった。公式サイトや動画サイトから実際の飛行動画の紹介も多数あった。
「ここまで紹介してきましたが、日本の機体メーカーは出てこない。世界レベルに無いというのが現状となっています。世界では回転翼と同様に求められている固定翼の開発が、日本では4%程度ということも影響があるでしょう。“空飛ぶクルマ”についても、開発が先行している欧米では固定翼が想定されているため、飛行距離は270km、乗用車レベルの人数が乗る前提となっています。ここもメーカーさんには考えて頂きたいと思います」(野波氏)
“つくる”ことをし続けてきた野波氏からの本講演内容は、日本各地からシンポジウム会場に集ったドローン事業者や、産官学それぞれのセクターにてドローン事業に携わる参加者に対しての、激励とも感じられる内容であった。厳しい現状を示された会場参加者からは、「日本の機体メーカーが世界レベルに無いという講演内容で、ショックを受けた。なんとかしなきゃいけないと思った」などのコメントも聞かれ、質問が相次ぐ活気がある雰囲気でシンポジウムは終了となった。
取材・文=かのうよしこ