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Interview

ドローン観光の模索が切り開く「未来の実装」、“専門家以外”の遠隔操作を実現可能に

#ドローン #兵庫県 #実証実験 #砥峰高原 #空撮 #観光
2022.02.3

全国の自治体の中でもドローン利活用促進の実証実験を先進的に行っている兵庫県。令和元年度から始まった「ドローン先行的利活用事業」では、兵庫県の産業労働部産業振興局新産業課と新産業創造研究機構(NIRO)が、兵庫県の全庁横断となるこの取り組みを全面的にサポート。県内企業を中心とした官民連携で、ドローンの利用を促すべく実証実験企画を行ってきた。

本稿では、令和3年度の公募事業のうち、コロナ禍で大打撃を受けた観光業におけるドローン活用の新しい取り組み事例についてレポートする。株式会社阪急交通社で本プロジェクトを担当した大阪団体支店の藤原氏、丹羽氏、そして株式会社 RedDotDrone Japan 代表の三浦氏に、本事業の実施内容について詳しく話を伺った。

ドローン×観光の取り組みが、新しい体験を創出する

近年観光の分野では、「サイクリングツアー」「アートツアー」など、こだわりのテーマをもとに構成されたツアーが注目されている。法人や組織団体様の旅行手配、企業イベントの手伝いなどを主業務とする団体支店の営業一課の課長、藤原氏は旅のテーマとなるような素材を探す中で、ドローンを取り入れていくことができないかと考えたと言う。

「ドローンを観光地に持っていって自分で操作して空撮したい、というようなニーズがあることは知っていましたので、観光や旅とドローンを掛け合わせて何か出来ないかなと考えていました。ちょうどタイミングよく兵庫県のドローン先行的利活用事業のことを知り、お付き合いのあるドローンスクールの方に何かできないかと相談したところ、兵庫県の担当の方やレッドドットドローンさんと僅か数日の間に引き合わせて頂きました」(藤原氏)

一方、スピードマッチングを果たしたレッドドットドローン社は、現在スポーツ空撮などの分野で注目を浴びるスタートアップだ。ヨットのセーリング大会やスノーボード大会などでは、選手にGPSをつけて1位の人を追っていくような映像中継をしたり、サッカーなどのフィールド競技を上空からドローン撮影し、フォーメーション指導に活かすなどの活用がされている。

「私どものドローンはあくまでも汎用的な技術となっていますが、今回の兵庫県の『ドローン先行的利活用事業』の概要を見たときに、観光分野に我々の技術を投入することで新しい観光の形というのが出てくるのではないかと考えており、そのような相談を担当者の方にお話していました。当初は弊社のみで応募するつもりだったところ、兵庫県側から観光分野に明るい企業と組んで応募してみないかとご提案いただいて、このような座組みになりました」(三浦氏)

「初心者が遠隔地ドローンを操作する」実現の為の試行錯誤

折りしも、世界は新型コロナウィルス感染症の対応に追われている時期。国内外を問わず、旅行業は大打撃を受けているその渦中の時期に、このプロジェクトはスタートした。各社さまざまな模索を余儀なくされてきた。その試行錯誤のひとつとして「オンラインツアー」が、新たな旅のスタイルとして拡充してきた。本プロジェクトの担当者となった丹羽氏も、阪急交通社の業務としてオンラインツアーの運営に参加してきた。

「レッドドットドローンさんのドローン技術と出会って、これを生かした新しい観光の形を考え始めた時に、この遠隔操作の技術を使えば誰でも、自宅にいながらにして“見ているだけじゃない”オンラインツアーができるのではないかと考えました。画面の向こうを見ているだけのオンラインツアーは、やはり物足りなさを感じてしまうのも事実です。でも、自分でドローンを操作して思い通りの風景を見られれば、オンラインツアーであってもお客様自身が主体性をもって楽しむことができるのではないかと思いました」(丹羽氏)

誰もが自宅からドローンを自由に操作して、思い通りの場所から観光地の風景を楽しめる、新しい観光の形を実現したい──しかし、これは言うほど簡単に実現できることではない。現状の日本では、どこでも自由にドローンを飛行させることは、もちろん出来ない。業務上必要な飛行については経験者やライセンスを持っているパイロットが操作することが前提となっている。不特定多数と言ってもいいドローン未経験の一般市民が、観光地の上空を次々に操作するとなると、前代未聞と言っても良いだろう。

「初心者の方に、しかもリモートでドローン操縦させるというのは、かなり無謀でクレイジーな案だったと思います(笑)。採択事業の有識者会議で本プロジェクトを説明した際には、ドローンに詳しい方から懸念事項に関して多くのご指摘をいただきました。一方で、我々としては、実現に向けて進んでいかなければならない。これまで弊社が国内外でどのような安全対策をしてきたか、飛行許可を取る時にはどのような申請をしてきたか詳しく説明したり、実際に県庁の会場からシンガポールのドローンを遠隔で飛ばすというデモを実施し体験して頂くなどして、ご納得頂けたと思っております」(三浦氏)

新たな風景の魅力を再発見「鳥の目線で観光できた!」


2社の検討が形になった2021年8月、実証実験のトライアルとして、兵庫県庁職員を対象として県内観光地でのドローン遠隔操作体験会を実施した。ところがこの時は、対象となった観光地の電波状況が悪く、良い結果が得られなかった。そこで電波環境の良い場所を探し直し、対象地を神河町の砥峰高原に変更し、改めてトライアルを実施した上で、一般の方向けの実証実験を実施することとなった。

阪急交通社は一般の方向けに、旅にまつわる知識や情報を提供するウェブサイト「阪急旅こと塾。」を運営している。本実証実験に際しては、この会員へ向けてドローン講座の参加者を募集した。ドローンについての簡単な講義と、自分の手でドローン操作して砥峰高原の景色を見るという体験型無料イベントとして募集をかけ、2021年11月に合計4回、全部で22人がこの講座に参加した。

「最も懸念されていた安全対策ですが、まず『ジオフェンス』機能を実装しました。ドローンを飛ばしても良い空間だけが目に見えない柵で囲んであり、操縦者がそこからはみ出そうとしても前へ進むことができません。そしてジオフェンスにぶつかった際には、現地に待機しているプロのパイロットが操縦をフックして、安全に降ろせるようになっています。一般の方の操縦許可が得られているのは、この仕組みによるものです」(三浦氏)

法規制の観点からだけでなくドローンを初めて触る操縦者にとっても、安全性が担保されていることはもちろん重要なことだ。この「ジオフェンス」「現地にいるプロのパイロットに、万が一の場合は操作を代わってもらえる」という二重の安心感があってこそ、初心者であってもドローン観光を楽しむことができる。

「皆さん、最初は見よう見まねで操作を試されていましたが、終わってから感想を聞くと『思ったよりも簡単だった』というお声が多かったですね。安全面に関して不安を感じたという意見はありませんでした。新しい旅の体験として『鳥の目線で観光できました!』『今まで見ることができなかった視点で観光地に入れるのが、すごく楽しい』などの感想を頂けたのは嬉しかったです」(丹羽氏)

兵庫県が新しい取組みに意欲的な自治体と企業をマッチング


本事業は、兵庫県と新産業創造研究機構(NIRO)のサポートの元で実施されているが、そのうち最も助けとなったのは「ドローンを飛ばす場所」を探し選定するところであると、2社は口を揃える。多くの観光地と協力関係にある旅行会社であっても、「ドローンの実証実験」を受け入れてくれる自治体を見つけるのは容易なことではないようだ。

「我々のような旅行会社はいろいろな観光地さんとお付き合いはありますが、ドローン観光というような新しい取り組みに興味がある自治体さんでないと、なかなか実証実験をするということを進めるのは難しいと感じました。県の方から兵庫県全体に広く声をかけていただき、その中で特に興味があると反応いただいた自治体さんとご一緒させて頂きましたが、諸々の申請などがかなりスムーズに進み、本当に助かっています」(丹波羽氏)

レッドドットドローン社は、もちろん、幾度となくドローンの飛行許可や申請を出してきた豊富な経験がある。過去には、自治体交渉に1〜2ヶ月かかるようなこともあったそうだが、今回は県のサポートがあることで、非常に短時間で済んだという。また他に、スタートアップならではの視点で感じる“メリット”についても語ってくれた。

「我々レッドドットドローンは、いわゆるスタートアップ企業、まだまだ小さな会社なのですが、この事業に関わることで別の場でも『兵庫県にこんな面白い会社がありますよ』『この会社と組んだらいいコラボレーションができるのではないか』というような紹介も色々頂いており、そこは本当に非常にありがたいと感じているところです」(三浦氏)

専門家だけでない「ドローン利活用」への第一歩

本事業の実証実験が無事終わり、また「ドローン観光」に参加された一般の方々に楽しんでいただけた実感から、阪急交通社、レッドドットドローン共に確かな手応えを感じているようだ。

「これまでは地上の等身大目線でしか風景を見ることができませんでしたが、上空のドローンから見ることができれば、風景の魅力を再発見することにも繋がります。観光地が賑わう、良いきっかけにもなるのではないでしょうか。また高齢者や足が悪い方など、普段なかなか旅行にいきにくい方向けに、今回のドローン遠隔操作での観光は向いているのではないかと思います。今後もブラッシュアップしていけたらと思っております」(丹羽氏)

「将来的に、ドローンは専門家だけのものではなく、操作しているという意識もなく生活に組み込まれていくことになると思います。そのような未来の雰囲気を熟成していきたい、一般の皆さまにも感じてもらいたいということは、日頃から思っていました。今回実際に、一般の方々に実際に操作していただき、楽しんでいただけたのを見ることができましたので、これを踏まえて更なる潜在的な需要を探していきたいと思っています」(三浦氏)

ドローン操作経験のない一般の人が遠隔でドローンを操作し、風景を楽しむ。本実証実験を通じて、新しい観光のかたちが発見されたと言えそうだ。また一般的にはまだまだ「手軽に楽しむ」というわけにはいかないドローン利用について、安全面や枠組みについての試行錯誤が一歩深まる事例ともなったのではないだろうか。

(取材・文 かのうよしこ)