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Interview

災害状況の把握や避難誘導にドローンを活用、AI翻訳による多言語対応も実現

#AI翻訳 #スピーカードローン #ドローン #兵庫県 #実証実験 #防災
2022.02.1

全国の自治体の中でもドローン利活用促進の実証実験を先進的に行っている兵庫県。令和元年度から始まった「ドローン先行的利活用事業」では、兵庫県の産業労働部産業振興局新産業課が、全庁横断のこの取り組みを全面的にサポート。県内企業を中心とした官民連携で、ドローンの利用を促すべく実証実験企画を行ってきた。

本稿では、行政分野の令和2年度第1回公募のうち、災害発生時の避難広報やリアルタイム中継に関する事業開発についてレポートする。実証実験の行政側の担当者である兵庫県災害対策課 主幹(当時)の大東義和氏と、事業提案を採択された株式会社T&T会長の前田稔朗氏と、社員の中田耀介氏に、本事業の実施内容について詳しく話を伺った。

県の防災訓練を通じてドローン活用の実証実験を実施

阪神・淡路大震災を経験し、2020年に25年という節目の年を迎えた兵庫県。「震災を風化させず、今後の災害に備える」という取り組みを続ける中で、これまでも様々なICT機器を使った防災の仕組みが考えられてきた。そこで、この「ドローン先行的利活用事業」を機会に、ドローンを活用した防災の取り組みについて協業してくれる企業を公募することにしたという。

災害対策課からは、「兵庫県では毎年、近い将来起こるといわれている南海トラフ地震の発生を想定した防災訓練を、定期的に実施しています。南海トラフ地震が発生すると、兵庫県内の最も早いところで44分後に津波が到達します。差し迫った状況で時間も限られている中、避難広報や現場のリアルタイムの状況把握などにドローンを利用出来ないかと考えました」との声があった。

「災害発生時を想定した防災訓練での複数機同時飛行によるリアルタイム中継及び災害避難広報の実施」と題された本事業の要件では、南海トラフ地震の発生及びその後の被害を想定した防災訓練における、訓練エリアを含めた複数箇所でのドローンの同時運用を実施することが求められた。また、想定される災害現場の撮影動画を指揮所及び参加機関へリアルタイムで被害状況を中継するとともに、外国人生活者が多い県らしく、多重言語による避難広報についての対応も強くリクエストされた。(テーマA https://web.pref.hyogo.lg.jp/sr10/drone/documents/01-1bessia.pdf

実証実験は県の防災訓練を通じて行うことを想定していた為、令和2年9月20日に行われる“兵庫県・阪神地域合同防災訓練”、11月5日“兵庫県津波一斉避難訓練”、 令和3年1月17日“ひょうご安全の日防災訓練”の3回が指定された。兵庫県では、70程度の関係機関が相互協力した防災訓練を各地域持ち回りで行っており、令和2年度は阪神地域で実施された。コロナ禍の影響もあり住民参加型訓練や展示ブースの中止などの制約は多かったが、見学者に人数制限をかけての実施となった(このうち1月17日の防災訓練はコロナ禍の影響により中止となっている)。

AI翻訳機を用いた“多言語での避難広報”を実現

本事業の初回の実証実験の場として設定されたのは、令和2年9月20日の“兵庫県・阪神地域合同防災訓練”だ。南海トラフ地震を想定したシナリオに基づいた防災訓練で、尼崎市内の中学校で行われた。

災害対策課によると、シナリオはドローンから『地震が起きました』という避難を呼びかけるところからスタート。その場にいる市民に対して避難について広報するというシチュエーションとなっている。更に、道路が地震により発生した障害物によって封鎖されていると想定して、警察とか道路管理者等が障害物を除去していく訓練や、救出・救助の訓練についても実施したそうだ。

防災訓練で飛ばすドローンは、法律上は「イベントでの飛行」という分類になり、実運用上多くの制限がかけられる。例えば“兵庫県・阪神地域合同防災訓練”では、高度は20メートル以下に限られ、またドローンの半径30メートル以内に人が入らないようにするなどの安全性の確保が求められる。兵庫県による事業といえど、この点については厳守した上での要件実現が求められた。

T&Tの中田氏は本実証実験のドローン開発について「念頭に置いたのは、広い範囲でドローンからの音が聞こえること。その工夫には苦労しました。訓練の場ではサイレン音が大きい等の環境条件もあり、ドローンから距離が遠い人には音が聞こえ辛い。今回の実証実験では半径200mくらい音量が届くスピーカードローンで、広くアナウンスすることを目指しました」と語ってくれた。

行政側からの強いリクエストがあった多言語による避難広報についても、本実証実験にて対応完了している。「多言語対応」と聞くと、一見ソフトウェア面での課題解決方法をイメージしてしまう方も多いだろう。T&Tでも、開発当初はソフトウェア開発を考えたそうだ。しかし、同社の得意な手法はなんといっても「既存のものを組み合わせることで、課題を解決すること」だ。なんとか市販品や量産品の組み合わせで対応できないか試行錯誤を繰り返し、最終的にAI翻訳機である「ポケトーク」を利用することでクリアした。発想の柔軟さに加え、「有りもの」を最大限に活かしきるドローン開発の熱が伝わってくるようなエピソードではないだろうか。


ドローンやスマホで撮影した複数地点の映像を、地図上に集約して共有

2度目の実証実験は、11月5日実施の“兵庫県津波一斉避難訓練”で実施した。この訓練は、県から配信される「地震が来て大津波警報が発令されました」という緊急速報メールをきっかけに、地域の事業所や小学校、保育園等など個々の施設が避難計画に基づいて、自主的に避難訓練をする日だ。災害対策課からは、本実証実験の特色として、南海トラフ地震に加え日本海側の地震も想定し、南あわじ市、神戸市、香美町という3箇所が実験場所に選ばれた。

T&Tは南あわじ市にて2台のドローンを飛行させ、また、香美町ではスマートフォンから映像を撮影。震災時には県庁や被災市町の災害対策本部から複数地点の映像をリアルタイムに見ることを想定し、合わせてデモ検証を行った。これら複数地点の映像をリアルタイムで共有するためには、リアルグローブ社(https://realglobe.jp/)の「Hec-Eye(ヘックアイ)」というシステムを利用。ドローン等からの取得情報を地図上に集約し、共有することが出来る大変便利なプラットフォームとなっている。



“防災ドローン”利活用事業で得られた手応えと、今後の課題

ドローン事業者であるT&Tとしての成果は、多言語対応、そして本事業を契機としたスピーカードローンに関する特許取得など、目覚ましいものがある。また「Hec-Eye」についても本事業を切っ掛けに会社としてのお付き合いが始まり、活用が進んでいるとのこと。行政側からのリクエストに応えるだけでなく、積極的な提案と開発が、実際のビジネスにも大きな影響を与えた事業となった。

T&T会長 前田氏は「兵庫県の今回の実証実験で、ドローンの実運用についてかなり現実的なところまで見えてきたと思う。弊社は設立以来ドローンスクールを運営してきましたが、近年は既製品や量産パーツを駆使した改造でのドローンの開発について実力のあるメンバーが揃い、力を入れています。これまでドローン参入が考えられてこなかった分野や利用方法についても、様々な業界の方々から助言を頂きながら工夫を重ね、高みを目指して頑張っていきたい」と幅広いドローン活用について、今後の抱負を語ってくれた。

中田氏からは「弊社ではドローン事業について、人材育成も力を入れています。災害時についても、ドローン対応できる人材がそもそもいないという実感があり、CResD様と協力して“ドローン減災士”育成コースを創設しようと、現在準備中です。他の分野においても、ドローンで何が出来るのかはまだまだ未知数。各方面から『こんなことできないですか?』というご相談を頂き、それに一つずつ、地道に検討させて頂いています。これからもドローンを通じて、様々な社会貢献活動を行っていきたいです」と熱意溢れるコメントが飛び出した。

本事業を通して、行政が得られた成果はどのようなものであったのだろうか。災害対策課は「被害状況を、ドローンを通して上空から俯瞰して確認できるのは、災害時に確実に武器になると思っています。またリアルタイムで中継して、地点情報をリアルタイムで地図に落とせるというのは、災害オペレーションする上では非常に便利なものだなと感じました」と語る。複数年度に渡る実証実験を経て進化する“ドローン活用”に、確かな手応えを感じさせるコメントだ。

一方で、「運用面については課題もある」と正直な感想を述べられていた。「今回の実証実験では“防災イベント”という法規制があったことで、ドローン事業者さんには『飛びたいように、飛べない』という状況でご苦労を強いてしまっていると感じました。一方で、災害の実際の現場でも自由に飛べるとは限らず『これ以上は飛べない』『寄れない』という状況は生じてくると考えています。望遠カメラ等、パーツ選択や工夫を重ねることで、今後もカヴァーできるところを探してしていきたい」

最後に災害対策課から語られた“課題”は、しかし、行政と事業者が手を取り合っての開発に、未来を感じさせるものでもある。今後の兵庫県の防災における先進的なドローン活用の試みにも、引き続き注目が集まりそうだ。

(取材・文 かのうよしこ)